自分の身体に責任を持つ
入院直後から、僕は自分の身体のこと、病気のことを必死に調べるようになりました。
まずは、先天性心疾患(両大血管右室起始症)のこと。検索窓に打ち込んでみると、真っ先に難病情報センターのHPが出てきました。え、俺って難病だったの!? なんと両大血管右室起始症は、国の難病に指定されているようです。このときまで、僕は自分の病気のことなどほとんど何も知りませんでした(笑)。
胸には正中切開した大きな傷痕がありますし、親から手術のことなども聞いてはいましたが、何も知らなくても不都合なく生活を送れてきたので、特に積極的に知る必要もなかったのです。根治手術は4歳のときで、ほぼ記憶がありませんし。
とまあ、そういうわけで、今回僕は初めて自分の病気(身体)と向き合うことになりましたが、これがけっこうキツイ!今はさすがに現状を受け入れつつありますが、最初は自分の病気のことを知れば知るほど、「病気である自分」に嫌気が差し、すぐにPC(本)を閉じてしまっていました。
「根治手術をしてるんだから完璧に治ってるってことじゃないのか!?」「せっかく仕事もおもしろくなってきたタイミングなのに!」「なんで俺だけこんなところで年末年始過ごさなきゃいけないんだよ!」と、めちゃくちゃイライラしていました。「自分の身体」と向き合うのには、時間がかかります(だから医師や看護師が性急にことを進めようとしてきたときの苛立ちは半端じゃなかった)。
泣くだけ泣き、イライラするだけイライラしたあとは、バツっと気持ちを切り替えて、医師や看護師さんを質問攻めにしつつ、友人や親に何冊も何冊も医学書を買ってきてもらい、勉強しました。やり方としては、心臓自体の全体像をつかみつつ、個別の心室頻拍やICDの専門書を読むという形で進めました。当然専門用語のオンパレードで、全て理解できたわけではありませんが、特に参考にした文献は以下。
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- 作者: 野上昭彦,小林義典,里見和浩
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ほかには日本心臓財団や国循のHP、オンラインで読める不整脈に関する論文なども読みました。ただ、書籍を含め、こうした情報は客観的な情報でしかなく、あんまりしっくりはきません。そのため、生きた情報が得られるブログは本当に助かりましたし、励まされもしました。
そんなこんなで、僕のもともとの病気は、両大血管右室起始症の中でもファロー四徴症とほぼ同様の症例であることがわかりました。ファロー四徴症とは、「心室中隔欠損」「肺動脈狭窄」「右室肥大」「大動脈騎乗」の4つを特徴とし、先天性心疾患のうち4〜5%ほどを占めるものです。
過去の手術内容を聞いてみると、僕は4歳のときに心室中隔欠損のパッチ閉鎖術と、肺動脈弁の右室流出路パッチ拡大術を受けているそう。手術自体は非常にうまくいっており、今回もさまざまな医師から「素晴らしい手術をされていますね。執刀医は誰ですか?」と何度も聞かれたほどだったのですが、上の手術を受けた人は遠隔期に不整脈が出る人が少なくないんだとか。原理としては、手術に使用したパッチの周辺に異常な電気回路(リエントリー)ができ、本来は一方向に伝わる電気刺激が、異常な電気回路を経由することで、ぐるぐると興奮が回り、心室頻拍が起きる、ということのようです。
それがわかってるならパッチ使うなよ!と思わなくもなかったのですが、先天性心疾患の多くが成人を迎えることができるようになった(生存率が飛躍的に上がった)昨今、徐々に明らかになってきたようです。
で! 肝心の治療法については、主に以下の3つに集約されるようです。
(1)薬物治療(アミオダロン、β遮断薬等)
(2)カテーテルアブレーション
(3)ICD植込み
このうち、根治治療は(2)のカテーテルアブレーションのみ。(1)の薬物は不整脈の発生は予防しますが、その原因となる回路自体をどうにかできるわけではありませんし、(3)のICDは対症療法であり、いざ不整脈が起きたときに助けてくれるということで、不整脈の発生を抑える効果はありません。(2)のカテーテルアブレーションだけが、原因である異常な電気回路を焼灼し、取り除くことができます。
残酷なことに、そのアブレーションにより完全に異常な回路を取り除くのが難しいのですが……。多少の効果があっても、心室頻拍の怖いところは、たまたまの一発で死んでしまう可能性があること。そのため、「完全に」焼灼できなければ意味がありません。また、仮に完全に取り除けたとしても、新たに異常な回路ができることも少なくなく、入院仲間に聞いたところカテーテルアブレーションは、「いたちごっこ」になるそうです。アブレーション→再発→アブレーション→再発、という。
というわけで、自分で整理してみたところ、ICD植込みがベターであることは論を待たないでしょう。とりあえず、植込みさえしておけば、ほとんどの場合に突然死を防ぐことができるのですから。植え込んだ上で、ゆるりと今後の治療を計画し、実施していくのが無難な選択かと思います。一方で、ICDの植込みは、よっぽどのことがない限り、一生の付き合いになるといいます。生活の制限もありますし、もしかしたら身体の違和感と常に付き合っていくことになるかもしれません。
結論! まずはカテーテルアブレーションでの根治を目指し、やはり難しいようであればICD植込みを検討。
最終的に植込みすることになっても、ほかの選択肢を試さずに植込みするのと、全ての選択肢を試した上で植込みするのとでは意味が全く違います。ICD植込み後は、精神的に葛藤を抱える人も少なくないといいますから、なおさら本人の納得度が重要になると思います。そのため、少々仕事への復帰が遅くなってしまいますが、まずはカテーテルアブレーションにトライすることに決めました。